バリュー株投資は「勝者のゲーム」!
井手 正介
日本経済新聞出版社
2010-11-19


バリュー株投資は「勝者のゲーム」! をナナメ読みしました。著書は言わずと知れた井手正介氏。個人ブログでの評判はあまり聞いたことがない本ですが、何気なく手に取った割にはとても勉強になる本でした。

例えはROEの考え方。

株式が疑似債権であるとしたらROEはその疑似クーポンレート(利回り)にあたるもので、このROEこそ企業収益の源泉になるものです。しかし、ROEが経営上のオペレーションを遂行した結果としての指標である一方で、投資家サイドの見方としては高ROE銘柄が必ずしも高いリターンを生み出すことないと言われます。ROEという指標の注意点としては(1)負債・レバレッジが高く、財務状態が悪い銘柄も高ROEとなりうること、(2)純利益という変動が大きい数値を算出根拠するために年ごとに数値がブレやすいこと、といったことが挙げられます。

本書においては高ROE銘柄を推奨している訳ではなく、過去10年間において概ね市場平均以上のROEを継続的に上げていることを優先します。このことから対象銘柄も利益がブレやすい中小型株ではなく日経225銘柄の成熟企業としています。ROEに着目した考え方はバフェットの考え方に共通する部分ですが、本書においてはいわゆる「消費者独占企業」「将来的なファンダメンタル」といった個別銘柄に対する詳細な企業分析を行うことなく、PERや株主資本比率といった一般的な基準を機械的に運用することで株式の平均期待利回りを上げることができ、タイミング投資を伴うことなく中長期的にインデックスに勝てると主張しています。

この主張は筆者が実際に検証した結果であり、そのPFの組み換えなども詳細に記載されており信憑性の高い内容になっています。

また、ROEが安定している米国株はインデックス投資に向いているが、我が国においてはROEがブレやすいのでインデックス投資が不向きであるといった他書では見られない観点からのインデックス投資批判も展開されています。

MPT、ベータといった金融工学からグレアム、バフェットなどのバリュー投資家まで内容は盛りだくさんでかつ平易に書かれていることから個々の分野に入る前の入門編としても役立つかもしません。

バリュー投資が勝者のゲームであるという題名はやや大風呂敷を広げた印象もあり、筆者が示すスクリーニング要件を模倣する気持ちもありません。リーマンショックの後に書かれたやや古い本ではありますが、その考え方についてはとても役に立つものです。何度も繰り返して読むに値する良書だと感じました。